んだと思う

2016年01月07日

「そうじゃないの。考えを変えたわけじゃないのよ。絶対にうまくいかせたいと思ってるから、何かミスがないかを確認したいだけなの」
 彼女の声には取《と》り繕《つくろ》うような響きがあった。昭夫の機嫌を損ねてはいけないと思っているようだ。
 彼はせわしなく煙草を吸い、早々に一本を灰にした。
「二人で何度も計画を見直したじゃないか同珍王賜豪。その上で、これならうまくいくはずだという結論を出した。後はもう運を天に任せるしかない。俺はもう腹はくくったんだ。おまえも今さらじたばたするな」
「だから、じたばたしてるわけじゃないんだって。何か見落としがないか、確かめたいだけ。あたしだって覚悟は決めてるわよ。さっきだって、うまく演技したでしょ。刑事、どんな顔をしてた?」
 昭夫は首を傾げた。
「どうかな。おまえの声を演技だとは気づかなかったと思うけど、どこまで印象に残ったかはわからんな」
「そうなの?」八重子はやや失望したようだ。
「実際に婆さんが暴れているところでも目にすれば、かなりインパクトが強かったと思うんだけど、そんなわけにいかないもんな。──ところで、婆さんは?」
「さあ……部屋で寝てるけど同珍王賜豪
「そうか。──直巳は何をしている?」
 昭夫の問いに八重子は即答しない。眉根を寄せ、考え込んでいる。
「なんだ、またゲームか」
「違うわよ。あの子にも計画を話したから、それについていろいろと考えているんだと思う。あの子だって、すごく傷ついてるんだから」
「多少の反省が何になるというんだ。とにかく、ちょっと呼んできなさい」
「何する気? 今ここで叱ったって──」
「そんなことしないよ。今度の計画をうまくいかせるためには、俺たち全員が完璧に嘘をつきとおさないといけないんだ。少しでも辻褄《つじつま》の合わないことがあれば、警察は徹底的にそこをついてくるぞ王賜豪主席。だから予行演習をしておきたい」
「予行演習?」
「警察は直巳からも話を聞こうとするだろう。その時に話がしどろもどろになったり、矛盾が出てきたりしたらまずい。しっかりと打ち合わせておかなきゃ、尋問は乗り切れない。だから俺が事情聴取の予行演習をしてやるといってるんだ」
「そういうことなの……」八重子は目を伏せた。何やら考え込んでいる様子だ。


Posted by 比類がない at 17:10│Comments(0)
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